司法書士 長部教考のトラブル解決 トラの巻

コーヒー・ブレイク「スノーホワイト」

コーヒー・ブレイク「スノーホワイト」

暑い日が続いています。お身体を大切に・・・。西欧のおとぎ話のキーワードはなんといっても「お姫様と白馬の王子そして魔女」といったところでしょうか・・・。ワンパターンは面白くないので、白雪姫を勝手に変えてみました。

 

  むかし、世にも希な美女を后に迎えた王がいた。王の治める国は実り豊かで、これ以上の幸福者はいないと誰もが羨んだ。やがて、二人の間に、それは可愛い姫が誕生し、国をあげてこれを祝った。姫は周りの愛情を一心に受け、真っ直ぐに育った。15才になる頃には隣国の王子とも婚約が整い、いつまでも幸せが続くかのように思われた。

  ある日、乗馬も得意な姫は従者二人と共に朝から遠乗りに出かけた。最初は青空が広がっていたが、昼を過ぎる頃、にわかに東の空に雲が沸き上がったかと思う間もなく、雷鳴と共に大雨が降り出した。思いがけず冒険になってしまった遠乗りに、密かに心を踊らせながらも、従者の言葉に従って帰路を急いだ。その時、突然、ピカッと光ると同時に、姫が横切ろうとした大きな杉の木に雷が落ちた。馬は驚き、姫を乗せたまま一目散に駆けだした。従者は、急いで後を追った。懸命に追うがなかなか追いつくことができない。やがて姫は視界から消え、かすかに蹄の音が聞こえていた。

  日も暮れかかる頃、いつしか雨は止んでいた。従者は必死に姫の名を呼び山中を探し回っていた。しかし、二人は突然、立ち止まり顔を見合わせた。二人の顔色が青ざめていった。そこは七匹の魔物が住むと恐れられている森だったのだ。懸命に馬に鞭を入れ城へ逃げ帰った。

  王はすぐに捜索隊を繰り出した。しかし、魔物が住むという森へは誰も探しに行こうとしなかった。王も敢えてその森の捜索は命じなかった。数日後、馬は見つかったが、そこに姫の姿はなかった。その後も懸命に山中を探したが魔物の餌食にでもなってしまったのか姫は見つからない。后は心配のあまり病の床についた。そして、一ケ月ほど過ぎた頃、姫が戻らぬままこの世を去った。王は一度に二人の愛する家族を失い、悲嘆にくれた。
姫は、暴走する馬から振り落とされないよう懸命にしがみついていたが、雨でぬかるんだとろで馬が足を滑らせたとき、落馬し頭を打って気絶してしまった。気が付いたときには馬の姿はなく、一人で、暗い見知らぬ森の中に取り残されたことを改めて知った。しかし、「きっと父や王子が助けに来てくれる。そう思うと勇気が沸いてきた。不気味な木々が立ち並んでいたがその隙間から漏れてくる月明かりは優しかった。

  夜が明けると、姫は方角もわからないまま歩き出した。やがて歩き疲れ、座り込んでしまった。横を見ると美味しそうな木の実がぶらさがっている。急に空腹を感じ、思わず手を伸ばして木の実を手にした。初めて目にする木の実だった。恐る恐る口にしてみると、美味しい。姫は空腹を満たそうと次々に口へと運んだ。姫は元気を取り戻し、再び歩き始めた。しかし暫くすると強い眠気が姫を襲った。姫は倒れ込み、気を失った。

  姫がいなくなって早一年を過ぎようとしていた。何時までも失意の内にある王を側近達は慰めた。王は新しい后を迎えることを決意した。すぐに后は決まり、先の后に勝るとも劣らない美しく、気だての良い女性が迎えられた。王の悲しみは時間と共に次第に癒され、二人は愛を育んでいった。

  そんなある日、姫が突然帰ってきた。魔物が住む森の入り口あたりで木こりが見つけたということだった。姫は少しやつれてはいたものの元気だった。あの大雨の日から既に4年あまりが過ぎようとしていた。王は姫を見て驚いた。亡くなった先の后に瓜二つ、さらに美しく成長していたのだった。姫は4年間のことは何一つ詰ろうとせず、しばらくは母の死を悲しんでいたが、新しい后にも少しずつ馴染んでいった。

  新しい后は、苦しんでいた。確かに姫が戻ったときには王と共に喜び、美しい姫を慈しんだ。しかし、時間が経つにつれて王が少しずつ変わっていくのを感じていた。王は娘の中に先の后の面影を追っていたのだ。先の后のことは忘れて、今の后と共に…‥。そう思いながらも、自分ではどうすることもできず、後の后を段々と疎んじるようになっていった。

  后は、王に愛されたいと願い、鏡に向かい美しく化粧をするのが常だった。しかし、いつからか、ふっと鏡の向こうに別の顔が浮かんでくるのだった。そこには美しい姫が無邪気に微笑んでいた。いや、姫とそっくりな先の后がそこには浮かんでいた。もうこの世にはいない后への嫉妬は、どんなに消し去ろうとしても消えることはなく、后は徐々に心を病んでいった。

  姫はひとりぼっちの自分を感じていた。王は姫を愛しながらも、消えてくれぬ先の后の幻影から逃れようと姫を遠ざけていた。新しい后も、段々と姫には冷たく接するようになっていた。周りの者は笑顔を見せながらも、4年間の空白を勝手に想像し、噂の花を咲かせていた。時折、訪ねてくれる婚約者の王子と過ごすひとときだけが姫の心を慰めた。

  この豊かな国には、ある風習があった。人々は奇形の子供を出産すると魔物の子として恐れた。そしてその子供は直ちに魔物の森の入り口に捨てられたのである。その山には薄気味の悪い木々が立ち並んでいて、誰一人立ち入ろうとする村人はいなかった。むかし、旅人が迷い込んで魔物に魂を抜かれ、心臓だけは動いているが二度と目を開けることもなく一生を終えたと言い伝えられていた。

  后はもう耐えられなかった。心を病んだまま魔術師を訪ね、秘薬を手に入れた。城へ帰ると、早速、リンゴに秘薬を塗り、姫の部屋へと運ばせた。姫は、后の久しぶりの優しさに触れたように感じ、運ばれたリンゴを味わった。食べ終わったとき、姫は再び恐ろしい眠気に襲われた。薄れゆく意織の中、森で木の実を食べたときのことが浮かんだが、次の瞬間には意織を失っていた。

  姫は意識が戻らず、高熱が続き、一日一日と皮膚が焼けたように爛れていった。1週間後に意識は戻ったが、見る影もなく、醜く変わっていた。人々は魔物の祟りだと言って恐れおののいた。王もまた別の意味で恐れた。王の脳裏には姫の出産の時の出来事が浮かんでいた。待ちこがれる王のもとへ后の出産が報告された。王は急いで駆けつけた。そこには二人の子がいた。一人は可愛い姫だった。そしてもう一人は魔物の子であった。王は皆に口止めすると同時に直ちに魔物の山へと王子を捨てたのだった。

  王は人目を避け、姫を幽閉して外出を禁じた。婚約者の王子は一度見舞いに訪れたが、二度と訪れようとはせず、その後、婚約は破棄された。

  后は心の病が癒えることはなかった。王は絶えずいらいらして、以前にも増して后に辛く当たるようになった。

  鏡の前に佇む后の目には、自分の顔が姫の顔に変わり、その顔が次第に醜く変わっていく姿が映っていた。后は良心の呵責に耐えきれず姫の幽閉されている地下へと向かった。姫は、かすかに漏れてくる月の明かりを見上げながら思い出していた。それは王や先の后のことではなく、今まで誰にも話さなかった森でのことだった。

  見知らぬ木の実を食べた後、意識を取り戻したとき、ずいぶん長い間眠ったような気がした。周りでは暖炉で木が弾けるような音が聞こえる。美味しそうな臭いも感じる。そして、起き上がろうとして驚いた。手も足も動かない。瞼さえ開くことができなかった。不安におののいていると、ドアが開くような音がしてガヤガヤと人が入ってきた。いろんな声が聞こえる。7人ぐらいはいるようだ。何か言いたかったが声を出すこともできなかった。

  「意識が戻ったみたいだ。」返事もできないまま、姫は優しくうれしそうな声を聞いていた。その声を聞いて姫の心は安らいだ。姫の食べた木の実には毒があり、もう1年以上も眠っていたこと。まだ当分は身体が動かず、安静にしていなければならないこと。元気になったらお城へ帰れることなどが話された。

  7人は、昼も夜も交代で姫の世話をしてくれた。そっと、おいしい食事を口へ流し込んでくれた。毎日やさしく身体を拭いてくれた。寂しさに押しつぶされそうになっていると楽しい話を沢山してくれた。娘は少しずつ回復していったが既に意織を取り戻してから2年の月日が経とうとしていた。そして、もう少しで瞼も開き、動けるようになりそうになったとき、7人がいつもと違った口調で話しかけてきた。

  ここは魔物が住むと恐れられている森だということ。7人はその魔物で、体が小さく、とても醜い様子をしていることなどが話された。7人の小人とは、実は、魔物の子として森に捨てられた子供達だった。森にはいろいろな木の実やきのこがあったが、それを食べると背が伸びなくなり、身体中に腫れ物ができ、皮膚が爛れた。しかし、生き延びることはできた。小人達はその醜さの余り森を出ることもできず、ひっそりと暮らしていたのだった。

  小人達は、美しい姫を客に迎えて嬉しかった。姫のために危険を冒して食べ物を探しに森を出た。姫にはこの森の木の実やキノコを食べさせるわけにはいかなかった。時折、村人と鉢合わせることがあったが誰もがその容姿を恐れ、村へと逃げ帰ってしまうのだった。

  姫はそっと瞼を開いていった。まぶしい光の中で少しずつ周りが見えてくる。そこは小さな山小屋だった。見回すと、暖炉に暖かい火が燃えていた。そして隅の方には、むこうを向いて震えている7人の小さな背中があった。姫はベッドを降りたが、歩くまでには回復していなかったので、一歩踏み出したところで倒れ込んでしまった。7人の小人は驚いて駆け寄り、覗き込んだ。7人の顔を目の前にして、姫は「あっ」と驚きの声をあげ、その異様さに目を背けた。

  そんな姫の頬に当たるものがあった。小人の涙だった。そっと見上げると、そこには、やさしく、悲しげな瞳があった。そして、何故かその瞳は懐かしい輝きを持っていた。姫は感謝の気持ちを込めて小人達をそっと抱きしめた。

  幸せな日々が続き、小人の小屋からはいつも笑い声が聞こえていた。小人達との生活は楽しかったが、やはり王や后のことが気になった。姫は森での出来事を話さないことを約束して小人達に別れを告げた。小人達は、ただひっそりと暮らすことを望んでいた。

  后は姫に全てを打ち明けて許しを請うた。姫の心に怒りはなかった。姫は、「私を魔物の森へ捨てるよう王に進言してください。」そう願った。后は驚いたが、姫の願い通りにした。躊躇いはあったが、王は結局、姫を魔物の森へと捨てた。

  翌年、かつて姫の婚約者だった王子が、兵を率いて攻め込んできた。村は焼かれ、多くの民が命を落とした。愛する者を失ってしまっていた王はあっけなく敗れ去った。

  姫は、魔物の森から、城が焼け落ちる炎を見ていた。その頬をたくさんの大粒の涙がつたった。森を抜ける風は姫の涙を吹き上げた。
涙は空高く舞い上がり、その国では初めて雪が降った。真っ白な雪はやさしく荒れ果てた戦場を包み込んでいった。

  隣国に占領された国では、かつての風習が消え、二度と魔物の森に子供が捨てられることはなかった。

  ある日、森へと迷い込んだ旅人は森の奥で魔物達が笑い合う楽しげな声を聞いたということだった。

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