相続
既に高齢化社会を迎え久しく、相続に関する相談が多く寄せられます。基本的なことだけでも知っていると、無駄な労力を省くことが出来ると思います。今回は、少しボリュームもありますが、ご参考までに・・・・。
第1節 死亡,相続
人が死亡すると,法律の規定や慣習に従って,家族及び相続人は次のようにいろいろなことをしなければなりません。
①役場等への死亡の届け出
②通夜・葬儀等
③相続の承認・放棄等(3ヶ月以内)
④遺産分割協議
⑤相続税の申告(10ヶ月以内)
⑥保険請求
⑦預貯金の解約
⑧登記・登録されている名義の変更(不動産・自動車・船舶・電話等)
⑨借金の清算
⑩その他
まず,誰が相続人になるのか,相続人が行うべき法律手続について簡単に解説いたします。
第1項 相続財産の範囲
被相続人(死亡した人)が有していた次の権利や義務が相続人に承継されることになります。
(1)所有権(しょゆうけん)
被相続人が所有していた土地・建物等の不動産,家財道具,自動車などの動産,金銭,有価証券などです。
(2)占有権(せんゆうけん)
占有権とは,物を現実に支配している権利をいいます。
(3)借地借家権(しゃくちしゃっかけん)
賃貸借契約に基づく賃借権などの借地借家権です。
(4)金銭債権・債務(きんせん・さいけん・さいむ)
貸金や売掛金等の金銭債権が相続財産であることはもちろんですが,売買代金の支払い債務や,消費貸借契約に基づく借入金の返済債務などの通常の金銭債務も当然に相続の対象となります。
(5)保証債務(ほしょうさいむ)
被相続人が保証人となっていた場合における保証債務についても相続の対象となります。
しかし,いわゆる身元保証契約に基づく債務や,包括的信用保証債務については,保証人と主債務者との人的な関係によるところが通常の保証債務よりも大きく,また,債務の額が不確定なものであることから,一般に相続の対象とはならないとされています。
(6)死亡の原因となった事故における生命侵害についての損害賠償請求権(そんがいばいしょうせいきゅうけん)
被相続人が第三者の不法行為によって死亡した場合,生命侵害についての損害賠償請求権が相続されることについては一般に認められています。
(7)死亡の原因となった事故における生命侵害についての慰謝料請求権(いしゃりょうせいきゅうけん)
慰謝料請求権も精神的な損害に対する損害賠償請求権という点では,通常の損害賠償請求権となんら異なるところはないため,現在では,慰謝料請求権についても一般的に被害者が慰謝料を請求できる状況であった場合には,被害者は慰謝料を取得し,それが相続されるものと考えられています(ただし,これに反対する立場もあります。)。
(8)雇用契約・委任契約など(こようけいやく・いにんけいやく)
雇用契約などは,当事者の死亡によって当然に終了し,相続されることはありません。委任契約などについても,当事者間の人的信頼関係を基礎とするため,原則として相続の対象とはなりません。
ただし,被相続人が生前に弁護士や司法書士に対して訴訟代理や登記申請代理を委任していたような場合には,その死亡によっても代理権は消滅しないとされています。
第2項 相続人
亡くなった人を被相続人といい,その被相続人の財産上の地位を承継する人のことを相続人といいます。相続人となる可能性があるのは,被相続人の子・直系尊属・兄弟姉妹及び配偶者です。会社などの法人は相続人になることはありませんが,胎児は被相続人が死亡したときに生まれていなくても,無事に生まれると相続人になります。
1.相続の順位は,次のとおりです。
(1)第1順位 配偶者と被相続人の子(子が死亡している場合は孫などの代襲相続人)
被相続人の子や孫がいないか,いても全員が相続を放棄した場合は第2順位の人が相続人になります。
(2)第2順位 配偶者と被相続人の直系尊属
直系尊属とは,父母や祖父母のことで,直系尊属がみな死亡しているか,全員が相続を放棄した場合は第3順位の人が相続人になります。
(3)第3順位 配偶者と被相続人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡している場合はその子)
* だいしゅう代襲そうぞく相続
相続の開始以前(被相続人の死亡する前)に相続人が死亡しているような場合,その相続人の直系卑属が相続することを代襲相続と言います。相続を放棄した場合,代襲相続は発生しません。
また,相続人が子の場合 ,代襲相続できる人はその孫,曾孫,玄孫と続きますが,相続人が兄弟姉妹の場合は,代襲相続できるのは兄弟姉妹の子までとなっています。
2.法定相続分(ほうていそうぞくぶん)
遺言がない場合の各相続人の相続する割合は,次の法定相続分によることになります。
相続人及び法定相続分一覧表
| 順位 | 相続人 | 相続分(遺留分) | ||
| 配偶者 | 配偶者以外の親族 | 配偶者 | 配偶者以外の親族 | |
| 1 | 有 | 子 | 1/2(1/4) | 1/2(1/4) |
| 無 | - | 全部(1/2) | ||
| 2 | 有 | 直系尊属 | 2/3(1/3) | 1/3(1/6) |
| 無 | - | 全部(1/3) | ||
| 3 | 有 | 兄弟姉妹 | 3/4(1/2) | 1/4(無) |
| 無 | - | 全部(無) | ||
| 有 | 無 | 全部(1/2) | - | |
※ 配偶者以外の親族の該当者が複数いる場合は相続分を更に均等分することになります。
※非嫡出子(ひちゃくしゅつし)の相続分は嫡出子(ちゃくしゅつし)の相続分の2分の1と定められていますが,違憲の疑いがあると指摘されています。
非嫡出子とは婚姻関係にない男女の間に生まれた子供のことですが,婚姻関係にない時に生まれても,後に父母が結婚した場合などは嫡出子となります。
※ 被相続人の生活や経済面で特別な貢献をした人には,寄与分として,その貢献の度合いを考慮した遺産の分割を求めることができる場合があります。
第3項 遺留分
1.遺留分とは(上記「相続人及び法定相続分一覧表」の( )書部分)
相続人に対して留保された相続財産の割合をいいます。ただし,被相続人の兄弟姉妹には認められていません。
民法の規定により,原則として,被相続人は相続財産である自分の財産を自由に処分することができます。しかし,相続には,相続人の生活を保障する意味がある点,相続財産には相続人の隠れた持分としての権利が含まれていることも多いことから,一定の割合については,遺留分として相続財産に対する権利が認められるというもので,遺留分は本来の法定相続分の半分とされています。
具体的な例としては,配偶者と子2人が相続人である場合の1人の子の法定相続分は4分の1です。しかし,被相続人がもう一方の子に全てを相続させる内容の遺言を残していた場合,相続分を指定されていない子は,遺言がなければ相続することができた4分の1の半分,つまり8分の1を遺留分として請求できることになります。
2.遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)
遺留分減殺請求とは,遺留分を侵害された人が,贈与又は遺贈を受けた人に対して,相続財産に属する不動産や金銭などの返還を請求することを言います。減殺請求の相手や財産は法律の規定により順序が定められています。
3.遺留分減殺請求権(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)の消滅時効(しょうめつじこう),除斥期間(じょせききかん)
遺留分減殺請求権は,遺留分を主張する権利を有する人が,相続の開始及び減殺すべき贈与や遺贈があったことを知った時から,1年間行使しないときは,時効によって消滅します。相続開始の時から10年を経過したときも権利を行使できなくなります。
4.遺留分(いりゅうぶん)の放棄(ほうき)
遺留分を有する相続人は,相続の開始前(被相続人の生前)に,家庭裁判所の許可を得て,あらかじめ遺留分を放棄することができます。
第4項 相続を証明する書類
相続人が確定し,具体的な相続手続を行う際には,相続を証明する書類として,少なくとも次の書類が必要になります。
①被相続人(亡くなった人)の出生時から死亡時までの戸籍謄本等(除籍,原戸籍)
②相続人の戸籍抄本,住民票
上記①は本籍地,②は住所地の市町村役場で取得します。
③遺言書がある場合は,その遺言書
* 公正証書による遺言書を紛失している場合は,公証人役場で写しを交付してもらうことができます。また,公正証書による遺言があるか無いかを問い合わせることもできます。
* 自筆証書による遺言の場合は,家庭裁判所で検認の手続を経る必要があります。
④相続放棄をした人がある場合は,相続放棄申述受理証明書
⑤限定承認をした場合は,限定承認申述受理証明書
⑥遺産分割協議が行われた場合は,遺産分割協議書及び相続人全員の印鑑証明書
第5項 遺言の執行
遺言の執行とは,遺言の内容を実現するための手続のことをいい,通常,相続人自身が行います。しかし,相続人自身が執行を行ったのではスムーズにできない,公正になされないといった可能性がある場合,高度な法律知識が必要な場合など難しいケースの際には,遺言執行者として信頼できる第三者を選び,遺言で指定しておくことができます。また,指定されていない場合には家庭裁判所へ選任を求めることもできます。
1.遺言の検認(けんにん)
遺言書(公正証書による遺言を除く。)の保管者又はこれを発見した相続人は,遺言者の死亡を知った後,遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して,その「検認」を請求しなければなりません。また,封印のある遺言書は,家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています。しかし,この手続は,遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。
2.遺言執行者(ゆいごんしっこうしゃ)の指定・選任
(1)遺言者は自分で信頼できる人や専門家を遺言によって遺言執行者に指定したり,適当な人が見つからない場合などに指定を第三者に委託することができます。
第三者は遺言執行者を指定して,相続人に通知し,指定された人が就任を承諾すれば遺言執行の職務を開始することになります。
遺言執行者に指定された人は,就任を承諾するかどうかは自由です。また,指定された者が先に死亡する場合もあるので遺言で指定する場合はその点を考慮に入れる必要があります。
(2)遺言によって遺言を執行する人が指定されていないとき又は遺言執行者がなくなったときは,家庭裁判所は,申立てにより,遺言執行者を選任することができます。
なお,遺言による子供の認知,相続人の廃除・取消の場合は必ず遺言執行者が必要ですが,そうでない場合には必ずしも必要という訳ではありません。
3.遺言執行者の職務
遺言執行者は,相続財産の目録を作成し,それを相続人に通知します。そして,相続財産の管理,その他遺言の実行に必要な一切の行為を行うことができます。相続人は遺言執行者の職務を妨害することはできません。
遺言の執行に要する費用は,相続財産から支払われます。遺言の執行に関する費用としては,遺言書検認手続の費用,相続財産目録作成の費用,相続財産を管理する費用,遺言執行者に対する報酬,遺言執行に関連する訴訟費用などがあります。遺言執行者の報酬は,遺言で定めることができ,遺言に報酬の定めがない場合には,家庭裁判所が,状況や事情を考慮して定めます。
第6項 遺産の分割の協議又は審判等
1.遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)
遺言等により相続分の指定がない場合には,相続人の間で遺産分割の具体的な内容を話し合うことになります。合意が成立したら,合意がなされたことを明確にしておくために,遺産分割協議書を作成し,相続人全員がそれぞれ署名・押印(実印)し,印鑑証明書を添付します。遺産分割協議書は,相続税の申告や,諸々の手続に必要になります。
なお,遺産分割協議は相続人全員でする必要があります。相続人の中に行方不明の人がいる場合には,家庭裁判所で不在者財産管理人を選任してもらいその管理人と共に協議を行う必要があります。
また,相続人の中に未成年者がいて,その未成年者の父又は母も相続人である場合には,やはり家庭裁判所へ申し立てて特別代理人を選任してもらい,その特別代理人と共に協議を行う必要があります。
更に,相続人の中に認知症等で判断できない人がいる場合にも,家庭裁判所へ申し立てて後見人を選任してもらい,その後見人と共に協議を行う必要があります。
2.遺産の分割の調停・審判
相続人の間において遺産分割協議がまとまらなかった場合,家庭裁判所へ遺産分割の申立てをすることができます。
遺産分割の申立てには調停と審判の2種類があり,通常は調停からはじめられます。
調停は,第三者である調停委員が相続人の意思を調整しながら,合意が成立するよう努めてくれます。調停で合意が得られず不調に終わったときは,次の審判に移行し,裁判所が遺産分割の方法を決めることになります。
第7項 承認及び放棄
自分が相続人に該当するといっても,必ずしもこれを承認しなければならないわけではありません。民法では,次のとおり承認及び放棄等について定めています。
1.単純承認(たんじゅんしょうにん)
相続人が被相続人の財産をすべて相続することです。この場合の財産には,プラスの財産だけでなく,マイナスの財産も含まれます。
単純承認する場合は,特に手続などは必要ありません。
また,次の場合には,単純承認したものとみなされ,限定承認・相続放棄が認められなくなってしまいますので注意しましょう。
①相続人が相続財産の全部,または一部を処分した場合
②相続人が自己に相続が開始したことを知ったときから3ヶ月以内に限定承認または相続放棄をしなかった場合
③相続人が,限定承認,または相続放棄をした後であっても,相続財産の全部,または一部を隠したり,消費したり,わざと財産目録に記載しなかった場合
2.限定承認(げんていしょうにん)
被相続人の財産を相続するが,プラスの財産の範囲でのみ借金等を支払うという相続で,自分の財産から借金等を返済する必要はありません。
限定承認をするには,自分が相続人になったことを知った時から3ヶ月以内に,相続人全員で,家庭裁判所に対して限定承認申述書を提出します。この場合の「相続人全員」には,相続放棄をした人は含まれません。
限定承認が受理されると,相続人の中から財産管理人が選ばれ,財産管理人が財産目録を作成し,必要な清算手続を行うことになります。
3.相続放棄(そうぞくほうき)
相続財産が債務超過である可能性が高い場合や,一部の相続人に相続財産を集中させたい場合など,相続する意思のない場合に行います。自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所へ相続放棄申述書を提出して行います。相続が開始する前に相続放棄をすることはできません。(ただし,前述の遺留分を放棄することはできます。)
原則として,自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に相続放棄申述をしなかった場合には承認したものと見なされますが,3ヶ月を経過したとしても,借金の存在を全く知らなかった場合などには,相続放棄が認められることもあります。
4.相続承認・放棄の期間伸長(きかんしんちょう)
自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に承認または相続放棄をするかどうか決めることが出来ない事情がある場合は,家庭裁判所に,相続承認・放棄の期間延長の申立てをすることにより,この3ヶ月の期間を延長してもらうことができます。
第8項 相続財産管理人制度
相続人がいないとき,またはその存在,不存在が明らかでないとき(相続人全員が相続放棄をして,結果として相続する人がいなくなった場合も含まれます。)には,家庭裁判所は,申立てにより,相続財産の管理人を選任します。
相続財産管理人は,被相続人の債権者等に対して被相続人の債務を支払うなどして清算を行い,清算後残った財産を国庫に帰属させる職務を行います。
なお,特別縁故者(被相続人と特別の縁故のあった者)に対する相続財産分与が認められる場合もあります。
第9項 相続税
相続税の申告と納税は,被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行うことになっています。
また,申告書の提出先,納税先はいずれも被相続人の住所地を所轄する税務署です。相続人の住所地ではありません。
相続税は,申告書の提出期限までに金銭で納めるのが原則です。
しかし,相続税の納税については,何年かにわたって金銭で納める延納と相続等でもらった財産そのもので納める物納という制度があります。この延納,物納を希望する人は,申告書の提出期限までに税務署に申請書などを提出して許可を受ける必要があります。
第10項 内縁関係にあった場合
内縁関係にあった場合の相手方には,原則として相続権は認められていませんが,残された人の生活を保護する意味で,アパートの賃借権の承継が認められたり,「死亡による内縁共同体の解消に基づく財産分与は可能」であるとして,内縁の妻は夫の相続人に対して財産分与を請求できることが認められています。

